エンタープライズの意識(旧:エンタープライズ対応)

エンタープライズの意識は、ディシプリンド・アジャイル(DA)フレームワークの重要な側面の一つである。DAチームは、他のすべてのチームと同様に、組織のエンタープライズエコシステムの中で働いている。既存のシステムが現在本番運用されていることはしばしばあり、ソリューションは少なくともそれら既存システムに悪影響を与えるべきでない。さらにソリューションが本番で利用可能な既存の機能やデータをレベルアップできるようになるのが、よりよいだろう。自分のチームと並行して作業しているチームがあるのはよくあることであり、彼らが作業しているものの一部を利用したい場合もあるし、その逆もある。組織がビジネスや技術のビジョンに向かって進んでいるならば、チームはそれに寄与しなければならない。チームが行っていることをうまく促進するようなガバナンス戦略というのは存在する。

この記事では、以下のことを記述する

  1. 5段階の意識
  2. エンタープライズの意識が意味することとは
  3. なぜエンタープライズの意識が重要であるか
  4. エンタープライズの意識に対する課題

5段階の意識

議論の目的として、ITプロフェッショナルが示している5段階の意識に注目しよう。

enterprise-awareness-jp

 

  1. 個人の意識
    この観点からは、新しいスキル、見識、経験などを獲得することによって、どのように自分自身が変化できるかが全てである。
  2. チームの意識
    ここでは、ともに学び向上できるチームに注目する。これは、かなり長い間アジャイルコミュニティーの主な哲学であり、大部分恩恵であるが、弊害ともなっている。ソリューションはチームによって開発し、チーム全体の生産性を少しでも向上させるために、アジャイリストはチームがより集中するようにする。しかし、そのチームの取り組みが組織全体の目的と揃っていないならば、機能不全になるだろう。例えば、チームを意識するだけのアジャイルデリバリーチームは、運用グループが本番レベルでサポートする気もないし、そもそもできない新しい技術を導入するかもしれない。あるいは、すでにある機能をまた作ってしまうかもしれない。データがすでに別の場所にあるにもかかわらず、また別のデータソースを作成するかもしれない。他のチームの作業の作法を反映しない独自の規約を作るかもしれない。とある技術や戦略が自分たちにとって有用であることを学んでも、この学んだことをチーム外にシェアしないかもしれない。
  3. 部門の意識
    人々は、チームだけでなく自身の部門のニーズを考慮する。この場合、開発者は単純な開発の考え方の代わりに、よりDevOpsの考え方を採用することで、ITプロセス全体を改善することに集中する。
  4. エンタープライズの意識
    人々は組織のニーズ全体を考慮するように駆り立てられる。これにより、彼らの活動が、チームのゴール(次善に最適)ではなく、組織のゴールに対して前向きな寄与を与えることが確実になる。これは、局所的(チーム)な最適化を超えた、全体(組織)の最適というリーン原理の例である。
  5. コミュニティーの意識
    人々はコミュニティーのニーズについて考慮する。知識を共有したり、自学習したり、そして、必ずしも自分の組織に所属していないあるいは、見知らぬ人さえ手助けしようとしたりして、コミュニティーにお返しをするためにできるだけのことを実施する。コミュニティーの意識は、認定ディシプリンド・アジャイルコーチ(CDAC)や、認定ディシプリンド・アジャイル熟練者(CDAP)となる上の重要な側面でもある。

もちろん、任意の個人は、一度に複数のレベルあるいは観点で動くだろう。

エンタープライズを意識するとは何を意味するか?

エンタープライズの意識は、自己訓練の面で重要である。なぜなら、プロフェッショナルとして単に自分にとって興味のあることだけでなく、組織のために正しいことをするように取り組むべきだからである。きちんとインストールし、テストし、設定が行われ、調整済みの完全にいいものがすでに組織内にもある時でも、孤立して開発するチームは、スクラッチでなにかを作るのを選択するかもしれないし、異なる開発ツールを利用したり、異なるデータソースを作成するかもしれない。ディシプリンド・アジャイルプロフェッショナルは、以下のことを実施するだろう。

  • エンタープライズプロフェショナルと密接に働く。
    これは以下のような人々と密接に働くことを示している。”既存”と”to be”の技術的インフラストラクチャーのレベルアップや拡張をするエンタープライズテクニカルアーキテクトやリユースエンジニア(参考 )、全体のビジネスエコシステムの活用に責任をもつエンタープライズアーキテクトやポートフォリオマネージャー、様々なチームを適切に統制を行うシニアマネージャー、組織全体の開発と運用(DevOps)の取り組みをサポートする運用スタッフ、既存データソースへのアクセスを改善するデータ管理者、エンタープライズITガイダンスを理解しそれに従うIT開発サポート、そして市場洞察、サービス予測、そしてその他重要な関心事を共有するビジネスエキスパート。言い換えれば、DADチームは、Mark(訳注:BIG Bookの共著者) が”全体エンタープライズ”マインドセットとして言及しているものを採用すべきである。
  • エンタープライズガイダンスを採用し、従う。
    組織は、標準やガイドライン(ガイダンス)を持っているあるいは、いつか持ちたいと考えており、デリバリーチームに採用し従って欲しいと考えているかもしれない。これは、例をあげると、コーディングガイド、ユーザーインターフェース開発ガイド、セキュリティガイド、そしてデータ規則を含んでいる。共通ガイダンスに従うことで、ソリューションの一貫性と保守性、そして、それゆえ全体の品質が向上する。
  • エンタープライズ資産のレベルアップを行う。
    利用可能で発展可能な、多くのエンタープライズ資産があるだろうし、そもそもないのがおかしい。ディシプリンド・アジャイルチームは、共通インフラストラクチャーを目指して作業を続けるべきである。例えば、エンタープライズ公認の技術やデータソースを利用可能なときはいつでも利用し、さらにインフラストラクチャーに対する”to be”ビジョンに向かって作業するのがより良い。組織がエンタープライズソフトウェアを構築するために、ディシプリンドアーキテクチャ中心のアプローチを利用するならば、やがては再利用し改善していくサービスベースのコンポーネントのライブラリを増強しつづけ、現在および将来の全てのソリューションに役立つことになるだろう。これを実施するために、DAチームは、ライフサイクルを通して、また特に取り組みを見越す際の方向付けの間に、エンタープライズプロフェショナルと協力するだろう。図1は方向付けフェーズのゴール「エンタープライズによる方向の整理」をまとめているので、ここから従うべき戦略を選ぶとよい。DAゴール駆動戦略に関するさらなる情報は、ディシプリンド・アジャイリストは、ゴール駆動アプローチを選択する(未翻訳)を参照せよ。図1.方向付けのゴール「エンタープライズによる方向の整理」
    goal-inception-align-with-enterprise-direction
  • 組織のエコシステムを強化する。DAチームがデリバーするソリューションは、最低限彼らをサポートするビジネスプロセスやシステムといった既存の組織のエコシステムに対して適合すべきであり、そのエコシステムを強化するのがより良い。これを実施するために、最初のステップとして上述したように可能な限り既存のエンタープライズ資産をレベルアップすることである、しばしばそれはエンタープライズアーキテクトと一緒に働くこととなる。エンタープライズアーキテクトに加えて、DAチームは、組織のエコシステムの現状や方向性を理解するためにライフサイクルを通して、密接に運用者とサポートスタッフと働く。DAチームは、追加の独立したテストチームのサポートを受けることはよくある。彼らは、プロダクションインテグレーションテスト(や他のこと)を実施し、配備時に初めて経験するターゲットの本番環境でソリューションが動作することを保証する。さらに熟練したDAチームは、リファクタリング技術を通して、チームが偶然見つけたエコシステムの問題を直しさえする。図2は、一般的なゴール 「既存インフラのレベルアップと拡張」をまとめている。この図はDAチームがこれを達成する方法に関する戦略をまとめている。図2.一般的なゴール「既存インフラのレベルアップと拡張」
    goal-general-leverage-and-enhance-existing-infrastructure
  • DevOps文化を採用する。
    DAチームは、ライフサイクルにわたり、特に本番へのリリースが近づくにつれて、運用・サポートスタッフと密接に一緒に働くだろう。DevOps文化と戦略はDAになじみやすい。
  • 学習を共有する。
    ディシプリンド・アジャイルチームは学習指向であり、学習する方法の一つは他人の経験を聞くことである。これが意味するのは、DAチームは他のチームと自身の学習内容を共有する準備もまた必要であるということである。これを行うためには、いくつかの戦略をあげると、アジャイルディスカッションフォーラム、インフォーマルプレゼンテーション、シニアチームメンバによるトレーニングセッションや内部カンファレンスを組織として選ぶことである。
  • 適切なガバナンス戦略を採用する。
    効果的なガバナンス戦略は、統制される対象をより強化すべきである。アジャイルデリバリープロジェクトを統制するための適切なアプローチは、組織にとって正しいことを動機づけ実行できるようにすることである。これは、統制とは別のタイプの試みであるかもしれない。状況によって何が正しいかは変化するが、これには、既存の資産を活用し、さらに進化するようにチームを動機付けること、一貫性を高めるために共通ガイドラインに従うこと、組織の共有ビジョンにむかって働くことが、典型的に含まれる。適切なガバナンスは、信頼と協力に基づいている。適切なガバナンス戦略は、DAチームが費用対効果の高いタイムリーな方法で利害関係者にビジネス価値を提供できるように強化すべきである。残念なことに既存の多くのITガバナンス(未翻訳)戦略は、指揮統制の官僚的アプローチに基づいていて、それは実際には効果がないとよく証明されている。最初のDADの本は、適切なガバナンス、昔ながらのガバナンス戦略の影響、そして適切なガバナンス戦略をどのように採用するかを詳細に解説した。訓練を要するアジャイルガバナンスを採用すること(未翻訳)では、より大きな洞察も得ることができる。
  • オープンで正直なモニタリング。
    アジャイルアプローチは信頼に基づいているが、スマートガバナンス戦略は”信頼するが、検証し、それから導く”という戦略に基づいている。適切なガバナンスの重要な側面は、様々な手段を通して、プロジェクトチームをモニタリングすることである。1つの戦略は、DAチームの現在の状態に興味をもつ誰もが日次調整ミーティングに参加し、聴くことであり、スクラムコミュニティーが推進している。これは、われわれも高く推奨する偉大な戦略であるが、残念なことにうまくスケールしない。なぜなら、ガバナンスを担当するシニアマネージャーは、ひとつのチームだけでなく多くの統制を担当し、たいてい忙しい。自動化されたダッシュボードがサポートする”開発インテリジェンス”のようなより洗練された戦略の必要性がある。

なぜエンタープライズの意識は重要か?

アジャイルはITプロフェッショナルを個々人からチームへと意識を再注目する手助けをする大きな仕事をやり遂げた。しかし、我々がプロフェッショナルとしてより効果的でありたいならば、少なくともエンタープライズの意識の考え方を促進する必要がある。そうすることで、実施する作業を組織にとって最適化できる。エンタープライズの意識を持っているアジャイルチームは、エンタープライズアーキテクトや運用スタッフといったエンタープライズのプロフェッショナルとともに、彼らが既存インフラに再投資することや、より強化することを保証するために、密接に協力して働くだろう。チームのアーキテクチャは、組織の技術ロードマップを反映し、同様にチームの成果のスコープは組織のビジネスロードマップを反映するだろう。チームは既存の開発ガイドラインに従い、ガイドラインをより適切に強化する。

エンタープライズの意識をもって働くことによって、DAチームは以下のことを享受できる。

  • 車輪の再発明を少なくできるので、高水準の生産性
  • しなければならない作業を少なくできるので、配備/市場への早い投入
  • しなければならない作業を少なくできるので、高い投資利益率(ROI)
  • 共通規約と再利用を通して高水準の品質

エンタープライズの意識に対する課題

残念ながら、アジャイルチームにエンタープライズの意識を持たせるには、2つの大きな課題がある。一つ目は、アジャイルコミュニティの中の文化的な課題である。それは、「アジャイル純粋主義者」の中にはエンタープライズの意識を不必要なオーバーヘッドとみなす人がいるということだ。この誤解の原因は、エンタープライズの全体像に対する理解の不足や、アジャイリストの中にはアジャイル手法でうまく作業できないエンタープライズ・プロフェッショナルと一緒に働いた経験があることが挙げられる。これは、エンタープライズ・プロフェッショナルがアジャイルチームと効率的に働く方法を理解していないという第二の課題を指摘している。これは、今まで彼らと一緒に働いていたアジャイルチームが彼らと効果的に働くように十分な訓練がされていなかったことも原因であるが、それよりも、エンタープライズ・プロフェッショナルが、より古く伝統的な手法の採用を変えられないことが原因であることが多い。ディシプリンド・アジャイル2.0 では、エンタープライズIT とのアジャイル/リーンなワークフローを記述することに積極的に取り組んでいる。(参照:http://www.disciplinedagiledelivery.com/disciplined-agile-ea-workflow/)

これらの課題は本質的に文化的であり、したがって、克服することは難しい。アジャイリストとエンタープライズ・プロフェッショナルは、お互いを尊重する必要があり、他のグループが達成しようとしていることについてもっと学ぶように努力する必要がある。彼らはともに働き、お互いから学ぶように努力しなければならない。さらに、組織へのコミットメントと責任を共有する文化を築かなければならない。これは、可能であるだけでなく、非常に望ましいことである。

まとめ

ディシプリンド・アジャイルチーム、とりわけDA熟練者は、エンタープライズを意識する。彼らは、エンタープライズの意識の戦略が、ソリューションの範囲内でも組織レベルでも利害関係者に価値を提供する能力を向上させることを認識している。言ってみれば、ディシプリンド・アジャイリストは、ローカルで活動し、グローバルに(訳注:全体を)考える。

オリジナル: Enterprise Awareness
http://www.disciplinedagiledelivery.com/enterpriseawareness/
(翻訳 東勲)

Pocket